そけいヘルニア Inguinal Hernia
目 次
そけいヘルニアとは、一般的な良性疾患で、特に男性に多くみられます。
実は、男性の3人に1人がそけいヘルニアを発症する可能性があると言われ、毎年14〜16万人の方が手術しております。
治療法としては、手術しか選択肢はなく、近年は日帰り手術も多く行われており、日々忙しく入院治療が難しい方が多く治療を受けられる環境が整っております。
当院でも、患者さまの負担が少ない日帰り手術を提供しております。
そけいヘルニアについて
外鼠径ヘルニア
男性に多く、鼠径管というトンネルのような部分を通って臓器が飛び出します。幼児と成人が発症するほとんどのヘルニアが外鼠径ヘルニアです。鼠径部の外側やや上方から膨らみ始め、これが少しずつ大きくなると最終的には陰嚢まで臓器が脱出してくることになります。嵌頓(かんとん:脱出した臓器が出入り口で締められて戻らなくなること)になる可能性が最も高いヘルニアです。比較的若い患者さんのほとんどはこのタイプです。中高齢者にも多く、一般的な鼠径ヘルニアと言えます。
内鼠径ヘルニア
男性に多く、外鼠径ヘルニアと似た場所にできますが、飛び出す場所が少し異なります。外鼠径ヘルニアの出入り口より内側の鼠径三角という部位の筋膜が弱くなり、臓器が押し出されて飛び出すのが内鼠径ヘルニアです。中年以降の男性に多いのが特徴です。左右両方が脱出してくることがあります。
大腿ヘルニア
女性に多いヘルニアです。特に高齢の女性に多いのが特徴です。太ももの付け根の下側が膨らみますが、付け根の上に膨らむこともあります。最も嵌頓を起こしやすいヘルニアなので早く手術をして治す必要があります。
複雑なヘルニア
外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアが同時に起こることがあります。単に鼠径ヘルニアと言っても人によって脱出する部位はさまざまです。従って術者はその患者さんに合った手術の方法を選ぶ必要があるのです。
女性のヘルニア
鼠径ヘルニアは男性に多いという印象がありますが、実は女性にも起こる病気です。
女性の鼠径ヘルニアは男性と比較すると1:8程度ですが、比較的若い女性に多いのが特徴です。
女性の鼠径ヘルニアには特徴があります。
20歳代から40歳代までの女性では、ほとんどが外鼠径ヘルニアです。この年齢のヘルニアでは生理周期に合わせてふくらみの大きさや痛みが変化する場合があります。
ヘルニア嚢の中に臓器が脱出するだけではなく体液が貯留することがあり、大きくなると痛みや圧迫感を感じます。ヘルニア類似疾患にヌック管嚢種がありますが、これは胎生期の体が出来上がる過程で鼠径管内に入り込んだヌック管が大人まで残り、体液が貯まったことにより起こります。ふくらみは抑えても平らにならないことが多く、このヌック管嚢種の約半数に子宮内膜症を伴っているのが特徴です。 50歳代以降の中高年の女性では、外鼠径ヘルニアのほかに大腿ヘルニアが多くみられます。大腿ヘルニアは「嵌頓」を起こしやすく腸がはまり込むと腸閉塞や腸管壊死を起こすことがあり、緊急手術が必要になる場合があります。 成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはありません。手術が唯一の治療法です。 若い女性の鼠径ヘルニアでヘルニアの出口が小さい場合は、メッシュを用いないで閉じる手術(Marcy法)を行います。下着に隠れる位置に3cmほどの創で行うため見た目も気になりません。 中高年の大腿ヘルニアには腹腔鏡の手術を行います。創が小さく痛みの少ない手術です。
そけいヘルニアの治療法
そけいヘルニアの治療は、外科手術で完治します。
手術方法には、腹腔鏡手術と鼠径部切開法があります。
鼠径部切開法について
鼠径部切開法による鼠径ヘルニアの治療は、お腹の皮膚を約3-5cm切り、飛び出した臓器を元に戻した後、ヘルニアの穴をメッシュで塞ぐ手術です。医学的な表現では、腹膜という臓器を切らないので、体表面で処置できる手術といえます。
鼠径部切開法には、多くの術式があり、国際的なガイドラインでは、リヒテンシュタイン法が推奨されていますが、日本ヘルニア学会監修のガイドラインでは手術方法で成績に大きな差はなく、メッシュプラグ法など術者が習熟している手術方法を選択することを推奨しています。
鼠径部切開法の特徴のまとめ
メリット
臓器を直接目で見て触ることができるため、複雑な手術や大きなヘルニアに対しては、より安全かつ確実な手術を行うことができます。
出血や合併症が発生した場合にも、すぐに対応できます。
デメリット
切開が大きいため、術後の痛みや出血のリスクが比較的高いです。
回復に時間がかかり、入院期間も長くなる傾向があります。 大きな傷跡が残ることがあります。
腹腔鏡による手術について
近年では、鼠径部切開法の代わりに、傷が小さく、回復が早い腹腔鏡手術が主流となっています。腹腔鏡手術は、お腹に小さな穴を開け、カメラと手術器具を挿入して手術を行う方法です。
腹腔鏡手術は、お腹を大きく切開するのではなく、数カ所の小さな穴からカメラと手術器具を挿入し操作する技術認定が必要な手術です。そけいヘルニアの手術では、このカメラでヘルニアになっている部分を内側から観察し、鉗子とエネルギーデバイス(切開・凝固する装置)を使って、フラットなシートを留置します。近年カメラの精度が向上し、4Kや3D画像で観察することができるようになり、広く普及している手術方法です。機器や麻酔法の改善により、日帰り手術を実施することも可能になりました。
手術法の比較
「鼠径部切開法」と「腹腔鏡手術」について、2つの術式の特徴を比較しました。
項 目 | 鼠径部切開法 | 腹腔鏡手術 |
---|---|---|
切開の大きさ | 大きい | 小さい |
手術時間 | 短い | 長い |
術後の痛み | やや強い | 弱い |
回復期間 | やや長い | 短い |
傷跡 | やや大きい | 小さい |
手術費用 | 安い |
高い
費用については、こちらで詳しくご案内しております。
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※ 術式での比較ですので、患者さまの状況により結果が変わります。あくまでも比較として参考にしてください。
どちらの手術方法を選ぶかは、ヘルニアの大きさ、患者さまの年齢や全身状態、医師の判断などを総合的に考慮して決定されます。
すべての患者さまに腹腔鏡手術を行えるものではなく、以下のような条件が当てはまる場合は、鼠径部切開法を採用します。
- ヘルニアが非常に大きく、腹腔鏡手術では対応が難しい場合
- 以前にお腹の手術を受けており、癒着が強く、腹腔鏡手術が困難な場合
- 他の病気を持っているため、全身状態が良くない場合
合併症について
そけいヘルニアの手術で、代表的な合併症について説明いたします。
出血・血腫
手術部位から出血し、血腫(血の塊)が形成されることがあります。
感染
傷口が細菌に感染し、炎症を起こすことがあります。
漿液腫
手術部位に体液が溜まり、腫れることがあります。
疼痛
手術後の痛みは一般的なものですが、長引く場合もあります。
再発
手術で修復した部分が再び破れて、ヘルニアが再発することがあります。
神経痛
手術の際に神経を傷つけてしまい、しびれや痛みを感じることがあります。
腸閉塞
腸が手術によって癒着したり、狭窄したりして、腸閉塞を起こすことがあります。
メッシュ関連の合併症
メッシュを使用する場合、メッシュが移動したり、感染を起こしたりすることがあります。
合併症のリスクを下げるために
術後は、術前にお知らせした治療計画に沿った生活を送っていただきます。合併症を避けるために必要なことですので、手術前後の指示をしっかり守っていただくことが大事です。
生活習慣として、喫煙さる方は禁煙されることをおすすめします。喫煙は傷の治りを遅らせ、合併症のリスクを高めます。
合併症が出た場合は
痛みが増強したり、新しい痛みが出たりした場合、傷口が腫れたり赤くなったりした場合も遠慮なく相談してください。特に「発熱」は感染の可能性がありますので、すぐに医師に相談してください。
合併症は必ず起こるものではありません
多くの場合、手術は無事に終わり、良好な経過をたどります。しかし、合併症が起こる可能性があることは理解しておきましょう。
術後経過についての説明
手術がスムーズに進み、術後経過が良好であれば、手術後30分程度でベッドから立ち上がっていただき、その後、2時間ほどで帰宅となります。 帰宅後、ご自宅では、無理のない範囲で普段通りの生活を送っていただいて構いません。
ただし、傷口の痛みや、体調の変化が気になる場合は、すぐに医師にご相談ください。
術後3回(手術翌日または翌々日、1週間後、2週間後)の診察をさせていただき、ご状態を詳しく確認させていただきます。
再発について
そけいヘルニアの手術治療の後で手術した部位が再度ヘルニアになることを再発といいます。再発の原因は、手術の方法、患者さまの体質、生活習慣など、様々な要因が考えられます。
当院での再発率は、切開法・腹腔鏡下手術でも他施設と比較して低い(1%以下)と考えておりますが、0%ではありません。
※ 松田理事長 総手術件数(3000件)からの算出
再発は、手術後1年目前後が多いと言われています。
再発の原因
手術方法が原因としての再発は、使用したメッシュの種類や、手術の技術によって再発することがあります。
また、手術の方法に関係なく患者さまの体質が原因として再発することも考えられます。
慢性的な咳や便秘など、腹圧がかかりやすい状態が続くと再発の可能性が高いと言えます。
生活習慣では、重い物を持ち上げたり、激しい運動をする場合も、再発の原因のひとつになります。
再発した場合
再発した場合は、再度手術が必要になることがあります。当院で手術を受けられた患者さまは勿論、他施設で手術を受けて再発された方もご相談ください。
診察・手術費用について
診察・手術費用について、およその金額についてご提示いたします。
3割負担の患者さまの例 54,000円〜120,000円
内訳
初診/術前検査7,000円 鼠径ヘルニア手術44,000〜110,000円 術後再診3,000円
時間や使用する薬剤等により、多少の増減がある事はご理解ください。
* 1割・2割負担の場合は、外来自己負担限度月額(8,000〜18,000円)以内となります。
そけいヘルニア手術Q&A
そけいヘルニアの治療、手術などのよくある質問をまとめました。