鼠径ヘルニアは、一般的に「脱腸」として知られる病気です。鼠径部(太ももの付け根部分)の筋肉の隙間から、お腹の中の臓器(主に腸)が皮膚の下に飛び出してくる状態を指します。男性に多い病気ですが、女性にも発生し、特に注意が必要な場合があります。

1. 初期症状

女性の鼠径ヘルニアの初期症状は、男性と同様に以下のようなものがあります。

  • 鼠径部の膨らみ・しこり: 鼠径部に、特に立っている時や咳、いきみなどでお腹に力が入った時に、柔らかい膨らみやしこりが現れます。横になったり、手で押さえたりすると元に戻ることが多いです。
  • 違和感・痛み: 膨らみとともに、鼠径部に引っ張られるような違和感や、軽い痛みを感じることがあります。特に、生理中や排便時に症状が強くなることがあります。
  • 下腹部や足の付け根への放散痛: ヘルニアの程度によっては、下腹部や足の付け根にかけて痛みが広がることもあります。

【女性に特有の注意点】 女性の場合、ヘルニアの袋の中に卵巣や子宮の一部が入り込むことがあり、その場合は特に痛みが強く現れたり、生理周期に合わせた症状の変化が見られたりすることがあります。

2. 原因

鼠径ヘルニアは、鼠径部の筋膜や筋肉が弱くなることで発生します。女性の場合、以下のような原因が考えられます。

  • 加齢: 加齢とともに筋膜や筋肉が弱くなることがあります。
  • 出産・妊娠: 妊娠中の腹圧の上昇や、出産時のいきみにより鼠径部に負担がかかることがあります。複数回の出産経験がある方や、帝王切開の経験がある方ではリスクが高まる可能性があります。
  • 慢性的な腹圧の上昇:
    • 便秘: 排便時に強くいきむことが日常的である場合。
    • 慢性の咳: 喘息や気管支炎などによる慢性的な咳。
    • 重い物を持つ作業: 日常的に重い物を持ち上げる習慣がある場合。
    • 肥満: 腹部の脂肪が増えることで腹圧が高まることがあります。
  • 遺伝的要因: 家族に鼠径ヘルニアの方がいる場合、発症しやすい傾向があると言われています。
  • コラーゲン異常: 結合組織の脆弱性が関与している可能性も指摘されています。

3. 気をつけること(日常生活で)

鼠径ヘルニアの症状を悪化させないため、また再発予防のために、日常生活で以下の点に注意しましょう。

  • 腹圧をかけすぎない:
    • 便秘を解消し、排便時にいきみすぎないように心がけましょう。食物繊維を多く摂り、水分補給をしっかり行うことが大切です。
    • 咳が続く場合は、原因となる病気の治療を受けましょう。
    • 重い物を持つ際は、膝を使って持ち上げるなど、お腹に負担がかからない持ち方を意識しましょう。
  • 適度な運動: 腹筋や体幹を鍛えることで、鼠径部のサポート力を高めることができます。ただし、腹圧がかかりすぎるような激しい運動は避け、医師と相談して適切な運動を行いましょう。
  • 体重管理: 適正体重を維持し、肥満を解消することで腹圧の軽減につながります。
  • 禁煙: 喫煙は慢性的な咳の原因となるだけでなく、結合組織の脆弱性にも影響を与える可能性があります。
  • 症状に気づいたら早めに受診: 膨らみが大きくなったり、痛みが強くなったりする前に、早めに医療機関を受診することが大切です。

4. 類似疾患

鼠径部の膨らみや痛みを伴う病気は、鼠径ヘルニア以外にもいくつかあります。自己判断はせず、専門医の診断を受けることが重要です。

  • ヌック管水腫(Nuck管水腫): ヌック管という組織が、出生後に閉鎖せずに残ってしまい、その中に液体が溜まって嚢胞を形成する病気です。
  • リンパ節の腫れ: 鼠径部には多くのリンパ節があり、感染症や炎症などで腫れることがあります。
  • 粉瘤(ふんりゅう): 皮膚の下にできる良性のしこりで、脂肪の塊のように感じることもあります。
  • 脂肪腫: 脂肪組織が増殖してできる良性の腫瘍です。
  • 動脈瘤: 鼠径部の血管にできる動脈瘤が、しこりのように触れることがあります。
  • 子宮内膜症(稀): 子宮内膜症が鼠径部組織に発生し、鼠径ヘルニアのような症状を示すことが稀にあります。
  • バルトリン腺嚢胞(女性特有): 鼠径部より会陰部に近い部位ですが、外陰部の嚢胞として触れることがあります。

5. 検査

鼠径ヘルニアの診断は、主に医師による診察で行われます。

  • 視診・触診: 医師が患者様の鼠径部を直接見て触り、膨らみの状態や硬さ、押さえた時の変化などを確認します。咳をしたり、いきんだりしてもらうことで、ヘルニアの膨らみをより明確に確認できる場合があります。
  • 画像検査(必要に応じて):
    • 超音波検査(エコー): 簡便に行え、ヘルニアの有無や内容物、周辺の状態などを確認するのに有効です。
    • CT検査・MRI検査: より詳細な情報を得る必要がある場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合に行われることがあります。

6. 治療方法

鼠径ヘルニアの根本的な治療は手術です。自然に治ることはありません。

  • 手術療法:
    • メッシュ法: 最も一般的な手術方法です。ヘルニアの出口となる弱い部分を、人工のシート(メッシュ)で補強します。
      • 前方アプローチ法(Onlay法、Lichtenstein法など): 皮膚を切開し、ヘルニアの飛び出しを元に戻した後に、メッシュで鼠径部の壁を補強します。
      • 腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP法、TEP法など): お腹に数か所の小さな穴を開け、内視鏡(腹腔鏡)を使って手術を行います。メッシュを体の内側から当てて補強します。傷が小さく、回復が早いというメリットがありますが、全身麻酔が必要となります。
    • 従来の修復術(組織縫合法): 筋膜を直接縫い合わせて補強する方法です。メッシュを使用しないため感染のリスクは低いですが、再発率がやや高い傾向があります。若年者や感染のリスクが高い場合などに選択されることがあります。

【女性の鼠径ヘルニア治療における注意点】 女性の場合、稀にヘルニアの袋の中に卵巣や子宮の一部が入り込み、嵌頓(かんとん:飛び出した臓器が締め付けられ、血流が悪くなる状態)を起こすリスクがあります。嵌頓が起こると、強い痛み、吐き気、嘔吐などの症状が現れ、緊急手術が必要となる場合もあります。そのため、女性の鼠径ヘルニアは、診断されたら早めに手術を検討することが推奨されます。

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東京浅草キュアメディクス 理事長
松田 年 (まつだ みのる)
医学博士・外科専門医・内視鏡外科学会技術認定医

旭川医科大学卒業後、日本大学病院で、胃・食道・大腸などの消化器癌手術を数多く経験。中でも内視鏡・腹腔鏡を使った外科手術は日本国内でも最も早く取り入れた一人である。2015年より外科の日帰り手術を専門とする医療に取り組み2018年に旭川キュアメディクス開院。

その経験から2024年に台東区で初の日帰り手術専門のクリニックである、東京浅草キュアメディクス開院。

鼠径ヘルニア日帰り手術を中心に、患者さまの満足度の高い日帰り手術の提供を日々研究しています。

 

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